訴訟①:先使用権
ここでは先使用権に関する判示に注目するわね。
他にも、間接侵害や、型番が違う製品が事実上同一だとされた論点などもあるので、判決も一読するといいわ。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/343/087343_hanrei.pdf
先使用権って、出願前に発明を実施していた人に認められる権利でしたっけ。
そう。クライアントに特許出願を勧めても、
「でも特許を取るのも安くないよね。『先使用権』ってのもあるみたいだし、自分で取るほどでは無いかなぁ」
なんて言われるの。
甘いわね…
先使用権って、そんなに簡単に認められるものじゃないのに…
ク、クリエ先生……?
………。
訴訟の内容はこんな感じよ。
訴訟の内容
判決日 | 平成29年12月13日 |
事件番号 | 平成27年(ワ)第23843号 |
担当部 | 東京地判(40部) |
発明の名称 | 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置 |
キーワード | 先使用権 |
事案の概要 | 被疑侵害者は特許発明の内容を実施していたと主張した。しかし裁判所は、その先行技術の内容が抽象的な思想にとどまるとして、先使用権における「発明」に至らないと判示した。 |
一応特許も見てみましょうか。
今回の説明とはあんまり関係ないけどね。
特許の内容
登録番号 | 特許第3966527号 |
発明の名称 | 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置 |
出願日 | 平成10年6月12日 |
登録日 | 平成19年6月8日 |
訂正審決日 | 平成22年2月25日 |
クレーム(訂正後の発明1) | A1 生海苔排出口を有する選別ケーシング, 2 (及び)回転板, 3 この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段, 4 (並びに)異物排出口 5 をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において, B 前記防止手段(A3)を, 1 突起・板体の突起物とし, 2 この突起物を,前記選別ケーシングの円周端面に設ける構成とした C 生海苔異物分離除去装置(A5)における生海苔の共回り防止装置。 |
J-PlatPatのリンクはこちらですね。
うわっ!!
何度も無効審判を受けているぞ!?
イ号と構成要件の対応については、「選別ケーシング」という言葉の「選別」の意義も考えた上で、構成要件充足としているわね。
先使用権
いよいよ先使用権の話ね。
ぱてん太くんは、先使用権が認められる具体的な基準を覚えてる?
えっと、、、ざっくり言うと、特許出願の前に発明の内容を実施していれば、他人の特許発明の内容を実施できる権利、ですけね?
それだけ言えれば十分よ。細かく言うと次のようになるわ。
条件
①「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、 又は特許出願に係る発明の内 容を知らないでその発明をした者から知得して」、
②「特許出願の際現に」
③「日本国内において」
④「その発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は」、
効果
⑤「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において」、
⑥「その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する」。
なるほど。この判決では何が問題になったんですか?
被告による先行品が、特許発明を実現していたかどうかという点よ。判決は次のように言っているわ。
このことからすれば,先使用権の基礎となる「発明」についても,その技術内容が抽象的な思想にとどまるものでは足りず,一定の技術的課題を解決するための技術的手段がその効果を挙げることができる程度に具体的かつ客観的なものとして構成されているものでなければならないと解するのが相当である。
そして被告の先行品と特許発明を比べて、先行品では特許発明が完成されてない、と述べているわ。
被告らが本件技術的思想A(※1)として主張する上記内容は,抽象的な思想にとどまり,課題解決のための技術的手段がその効果を挙げることができる程度に具体的かつ客観的なものとして構成されているということはできない。
(※1) 生海苔と海水との混合液を狭い隙間を通過させて異物を除去する時に、隙間への異物の詰まりを防止する手段を設けること
ふぅ~ん、被告は「それ位のことはずっと前に思いついていたぞ!」と主張したけど、残念ながら認められなかったんですね。
まあ、やや苦しまぎれの主張ではあったわね。
常識的な内容だけれど、改めて判決文で示してくれてスッキリしたわね。
コメント
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