バスにも「上下分離方式」があるって?

bus_separation 雑記

バスにも上下分離方式が! ついにそこまで…?

中国新聞の衝撃ニュース

2022年の5月3日、ある1つの知らせがバス利用者を揺さぶりました。それが、「広島市、路線バスの『上下分離方式』検討」というニュースです。

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広島市、路線バスの「上下分離方式」検討 公的資金を投入、鉄道も研究 | 中国新聞デジタル
新型コロナウイルス禍や人口減によるバス利用者の減少を受け、広島市が「上下分離方式」の導入を検討していることが2日、分かっ...

その内容は、

新型コロナウイルス禍や人口減によるバス利用者の減少を受け、広島市が「上下分離方式」の導入を検討している…

…郊外や中山間地域を含めて路線バスの公共性が高いことを踏まえ、車両や車庫の保有・維持管理を事業者から切り離して経営負担を軽減するのが狙い。公的資金を投入し、将来にわたって持続できる効率的な運営方法を探る。

中国新聞 2022/5/3

というものです。

「上下分離方式」とは?

「上下分離方式」とは、インフラの維持・運営の一つのやり方です。

上下分離方式(じょうげぶんりほうしき)とは、鉄道・道路・空港などの経営において、下部(インフラ)の管理と上部(運行・運営)を行う組織を分離し、下部と上部の会計を独立させる方式である。

一般には、中央政府・自治体や公営企業・第三セクター企業などが土地や施設などの資産(下)を保有し、それを民間会社や第三セクターが借り受けるなどして運行・運営(上)のみを行う営業形態がとられることが多い。

Wikipedia

日本ではこれまで、上下分離方式は鉄道について話題になってきました。日本では、地方の人口減少やクルマ社会化が不可逆的に進んでおり、鉄道の利用者が年々少なくなっています。その結果、鉄道会社の経営が苦しくなり、路線維持が難しくなってきています。そこで廃線になるよりは、と検討されるのが、自治体が「下モノ」である線路や車両などの設備を保有し、鉄道会社が「上モノ」である運営や運行を担当する、上下分離方式なのです。

例えば、新幹線の開通に伴ってJRから分離された第三セクターである青い森鉄道や、その地方にとって不可欠だと判断された三陸鉄道や上信電鉄などで採用されています。

鉄道の「上下分離方式」は、よく道路との比較で語られてきました。道路を整備するのは、殆どの場合国や地方自治体です。自動車を使って商売をする会社(「人」を運ぶバス会社やタクシー会社、「物」を運ぶ物流業者、そのほかマイカーを使う人や会社)はすべて、その税金で整備された道路の恩恵を受けています。その反面、鉄道会社は線路の敷設や維持に高い費用を払った上で、民間会社として利益を出していかなければいけません。

もちろん自治体がお金を出す必要があり、税金が使われるのですが、そのお金と鉄道が無くなることのデメリットを比べてもなおお金を出す価値があると判断されれば、上下分離方式を採用する意味はあるというわけです。

バスの上下分離方式はどうなる?

広島方式

それでは、広島の路線バスでの上下分離は、どのように行われるのでしょう?

市の案によると、市とバス事業者が出資してつくる資産管理会社が車両や車庫、バス停などの保有・維持管理を引き継ぐ。事業者は同社から有料で車両などを借りて運行する。

中国新聞 2022/5/3

現在の素案によると、「下モノ」として車両や車庫などの設備を保有するのは、市と民間バス会社が共同出資する資産管理会社だそうです。ここで税金が投入されることにより、路線バスを自治体が守るという体制が整うことになります。

そもそも、広島市のバスや公共交通の体系は?

ここで当然の疑問が出てきます。

それって市営バスじゃダメなの?

そう、全国各地に市バスや都道府県バスがあるように、市バスがやるんじゃダメなんでしょうか?
この疑問に答えるにはまず、広島市のバスや公共交通の体系を見る必要がありそうです。

お探しのページを見つけることができませんでした。- 広島市公式ホームページ|国際平和文化都市

広島市のこちらのホームページによれば、広島市でバスなどの公共交通を運営しているのは以下の会社です。

バス広島電鉄(株)広島市内だけでなく、呉市や北広島町など周辺までネットワークを持つ。
バス広島バス(株)広島市中心部にきめ細かな路線を持ち、郊外にもバスを走らせる。
バス広島交通(株)広島市中心部と北部を結ぶ路線を多く有する。
バスエイチ・ディー西広島(株)ボン・バスという小型バスを西広島の住宅街に走らせる。
バス芸陽バス(株)広島大学や広島空港の周囲に路線を持つほか、高速バスも運行。
バス備北交通(株)広島市と、東部の庄原や三次を結ぶ。
バス中国ジェイアールバス(株)広島エリアでは北部と中心部を結び、西条や呉など東部にも路線を持つ。
バス(株)フォーブルアストラムラインの駅と住宅街を細かく繋ぐ。
バス広交観光(株)広島交通グループに属し、観光路線を運営する。
新交通システム
(アストラムライン)
広島高速交通(株)広島市中心部と安佐南区の住宅街をつなぐモノレール。
鉄道JR西日本(株)広島市を東西に横切る山陽本線の他、芸備線や可部線も走る。
路面電車広島電鉄(株)広島市のJRより南側に広く電車を走らせている。
広島市内を走っている公共交通機関の一覧

そう、どうやら広島市には、「市営バス」が存在せず、民間企業が公共交通を担っているようです(新交通システム・アストラムラインの筆頭株主は広島市)。

この原因の1つは、広島市が中国地方随一の大都市であり、これら複数の会社の経営が成り立つほどの経済規模があることによります。利用者が多いため、複数の会社が路線を維持できるほどの収入を確保できるという訳です。

なぜ今、上下分離方式?

それでは、なぜ2022年というこのタイミングで、日本では例を見ない「路線バスの上下分離方式」が検討されているのでしょうか。

大きな原因は、今後、バス会社の経営状態の悪化が予想されることにあります。全国的な人口減少の傾向は今後とも(地域ごとに多少のムラがあるとは言え)変わることはなく、今は維持できている収入もジリ貧になることは明らかです。

一つの対策として、バス会社の合併による体力向上が考えられます。しかし、それでは会社は存続できたとしても、赤字路線を維持することは難しい。そこで、市バスを持たない広島市が公金を投入してでも住民の足を守る方法を模索した中から、今回の上下分離方式案が出てきたものだと思われます。

メリットとデメリット

メリットは長期にわたるバス路線の維持

この計画が実現されると、一つの資産管理会社が「下」側を担当して、バスや車庫、バス停などの固定資産を保有し、管理することになります。すると、9つの会社に分かれている現在とくらべて固定費の削減やスケールメリットの享受が可能になり、コストが削減されます。
さらに、市がお金を出して関与することになるので、財源が今よりも確実に保証されるでしょう。
一方、バスの運営や運行管理はノウハウのあるバス会社が行うことになるので、当面の間は乗客にとっての利便性が保たれると見て良い。

また長期的には、バス会社の統合が進むことが予想されますので、経営の安定という視点でも期待ができます。

果たして、そんなに上手く行くのか…?

ただし、当然ながら懸念もあります。
まず第1に、寄り合い所帯となる「下」側の資産管理会社の足並みの乱れです。各バス会社は規模も沿革も親会社の方針も違い、車両購入や整備、車両基地のロケーションに到るまで、利害が完全に一致することはないはずです。さらに広島市から出向の職員のスピード感の無さが加わると、船頭多くして船山に登るといった事態になりかねません。

第2には、将来的に人口減少がさらに進んで、上下分離方式でも採算が合わなくなった場合でも、バス路線の見直しが難しいと予想されることです。公金を使っている以上、広島市や周辺自治体が資産管理会社の大株主になり、つまりは市長や市議会がバス路線の決定権を握ることになります。そのため、いよいよバス路線の見直しが必要になったとしても、有権者への配慮から減便や路線廃止などの機動的な施策を取ることができず、徐々に全体が衰退していき老朽化するジリ貧コースになってしまうおそれがあります。

地方バス路線のモデルケースとなれ!

それでも、広島市のこの試みは、大都市で、しかもまだ余力があるからこそできることです。「バス路線の上下分離方式」という社会実験が、人口減少に見舞われる地方都市で住民の足を守る一つのモデルケースとなれば、地域創生に新しい光が差し込むことでしょう!

頑張れ!広島のバス!

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